講座】
音楽を1音で作ってみよう

本講座はモノフォニック・チップチューンを楽しむための手引書としてまとめました。

夏休み・冬休みの自由研究にいかがでしょうか?

§1 音楽を1音で作ってみよう

歌ってみたのイラスト(いらすとや)

鼻歌でメロディーを口ずさみながらベースラインやドラムもひとりでやろうとすると大変なことになるのは想像に難くないことと思います。それもそのはず、人間の声は単音(1音)なのです。ホーミーのような特殊な歌唱法をのぞき、人はひとりでは和音を歌うことはできないのです。しかし人間にはできないこともコンピューターだったらできてしまいます。

コンピューターを使って、あなたも音楽を1音で作ってみませんか?

音楽を1音で作るということは、言いかえるとモノフォニーではなく、ポリフォニー・ホモフォニーを1音で作るということになります。

その手法として、次の2つが考えられます。

  1. 時分割
  2. 表拍と裏拍

本講座では童謡「赤とんぼ」を例に、おもに「2. 表拍と裏拍」についてくわしく解説していきます。

用意するもの

※「赤とんぼ」はBPM60ですが、作例ではBPM120に変更しています。また、メロディーは楽譜より1オクターブ上で打ち込んでいます。

赤とんぼと夕焼けのイラスト(いらすとや)

§2 時分割

時分割

[図1-1]時分割とは

時分割は、おもにビープ音しか搭載されていない古いパソコンなどで音楽を演奏するために用いられた手法で、複数の異なる周波数を時間的に配列して、1音で複数のパートを演奏します。考え方としては、後述の高速アルペジオと同じですが、曲全体をミリ秒単位で細かく分割する点が異なります。

[作例1-1]時分割

[作例1-1]時分割

このピアノロールでは、楽譜どおりに打ち込まれているように見えますが、拡大すると音符が細かく時分割されているのがわかります。

[作例1-2]時分割(拡大)

[作例1-2]時分割(拡大)

作例では0.002秒単位で1音を5分割していますが、この周期がくるうと音痴になります。音色はほぼノイズで、音程は低音になるほど不明瞭になります。作例の場合は全体的にもう1オクターブ高くすればより音程が聞き取りやすくなるでしょう。

まとめ

  • 時分割は、複数の異なる周波数を時間的に配列して、1音で複数のパートを演奏する手法です。
  • 時分割では楽譜どおりにノートを打ち込むことができます。
  • 時分割する単位とその周期には制約があり、くるうと音痴になります。
  • 音色はほぼノイズで、音程は低音になるほど不明瞭になります。
  • 時分割はビープ音しか搭載されていない古いパソコンで有効な方法です。

§3 表拍と裏拍

表拍と裏拍

五線譜と音符のイラスト(いらすとや)

拍を前半と後半に分けたうちの、前半の部分を表拍、後半の部分の部分を裏拍といいます。

音符を半分にするともう半分は休符になりますが、ここではこの休符を埋めるように何かを入れることで2音以上鳴っているように聞かせる方法について解説していきます。

[作例2-1]単旋律

[作例2-1]単旋律

「赤とんぼ」のメロディーをベタに打ち込んだ状態です。

[作例2-2]裏拍を休符にした例

[作例2-2]裏拍を休符にした例

8分音符を半分の16分音符にしました。作例では長音符を分割し、全ノートを16分音符で揃えました。

[作例2-3]裏拍に別のパートを入れた例

[作例2-3]裏拍に別のパートを入れた例

作例では休符を埋めるように伴奏の低音を入れることで2音鳴っているように聞かせています。

表拍と裏拍のどちらに何を入れるべきか

バンドミュージシャンのイラスト(いらすとや)

作例2-1のメロディーのみの状態から、作例2-2・2-3では音符を半分にすることでできた休符に、メロディー以外の何かを入れられる状態になったところまでを説明しました。

一般的な音楽はリズム、メロディー、ハーモニーの三要素から成り立っていますので、メロディー以外の何かとはリズムとハーモニーということになります。

音楽の三要素を表拍と裏拍のどちらに入れるべきかはケース・バイ・ケースといえるでしょう。次に「表拍がメロディーの場合」と「裏拍がメロディーの場合」の特徴をまとめます。

表拍がメロディーの場合

表拍にメロディーを、裏拍(黄色の部分)にリズム・ハーモニーを入れた場合、曲は後ノリとなり、リズム・ハーモニーが遅れて聞こえるか、メロディーが走っているように聞こえます。

[作例2-4]表拍がメロディーの場合

[作例2-4]表拍がメロディーの場合

裏拍がメロディーの場合

反対に表拍(黄色の部分)にリズム・ハーモニーを、裏拍にメロディーを入れた場合、曲は前ノリとなり、メロディーが遅れて聞こえるか、リズム・ハーモニーが走っているように聞こえます。

[作例2-5]裏拍がメロディーの場合

[作例2-5]裏拍がメロディーの場合

このように「表拍がメロディーの場合」と「裏拍がメロディーの場合」を聞き比べると、「赤とんぼ」の場合は後者のほうが違和感が少ないように聞こえるのではないでしょうか?

ディレイ

音楽を1音で作る場合、長音符をどのように表現するかは悩みのタネです。解決方法のひとつとして、音量を下げたゴーストノートによるディレイ効果が挙げられます。

[作例2-6]ディレイ

[作例2-6]ディレイ

オレンジ色の部分が音量を下げたゴーストノートによるディレイ効果です。音量の下げ幅やゴーストノートの配置によって効果が変わりますのでいろいろ試してみてください。なお、このテクニックはビープ音など音源側の仕様で音量が固定されている場合は使えません。

まとめ

  • 拍を前半と後半に分けたうちの、前半の部分を表拍、後半の部分の部分を裏拍といいます。
  • メロディーの音符を半分にして、もう半分の休符にリズム・ハーモニーを入れることで2音以上鳴っているように聞かせます。
  • 音楽の三要素を表拍と裏拍のどちらに入れるべきかはケース・バイ・ケースといえます。
  • 表拍がメロディーの場合は後ノリとなり、裏拍がメロディーの場合は前ノリとなります。
  • 長音符を表現する方法として、音量を下げたゴーストノートによるディレイ効果が挙げられます。

§4 高速アルペジオとその応用

高速アルペジオ

キーボードを演奏する人のイラスト(いらすとや)

高速アルペジオは、和音を細かい分散和音で演奏することで、擬似的に和音が鳴っているように聞かせる方法です。

[作例3-1]高速アルペジオ

[作例3-1]高速アルペジオ

作例ではメロディーを64分音符に短くして、休符を同じく64分音符の分散和音で隙間なく埋めて、伴奏の音をなぞっています。このように慣習的にアルペジオと呼ばれていますが、必ずしも発声が上昇もしくは下降の音高順であるとは限りません。

[作例3-2]高速アルペジオ(拡大)

[作例3-2]高速アルペジオ(拡大)

高速アルペジオは発音数が少ないチップチューンでは頻繁に用いられる手法で、ギョロギョロとした特徴的な音色になります。そのため苦手な人もいるので、作風によっては使用を避ける場合もありますが、音楽を1音で作る場合はむしろ積極的に活用していくことになります。

オーケストラヒット

オーケストラのイラスト(いらすとや)

高速アルペジオの応用で、数オクターブの同じ音を瞬間的に鳴らすことでオーケストラヒットのような迫力ある音色を作ることができます。

[作例3-3]オーケストラヒット

[作例3-3]オーケストラヒット

作例では1つの16分音符を4つの64分音符に分け、4オクターブの同じ音を瞬間的に鳴らしています。また作例では下降形ですが、音の出だしが高音か低音かによって重厚感や明瞭感が異なりますので、上昇形の方がよい場合もあります。

[作例3-4]オーケストラヒット(拡大)

[作例3-4]オーケストラヒット(拡大)

作例ではディレイを付けていませんが、休符をディレイで埋めるとよりオーケストラヒットっぽくなります。いろいろ試してみてください。

まとめ

  • 高速アルペジオを使うと、擬似的に和音が鳴っているように聞かせることができます。
  • 高速アルペジオは、発音数が少ないチップチューンでは頻繁に用いられます。
  • 高速アルペジオのギョロギョロとした特徴的な音色は苦手な人もいます。
  • 高速アルペジオを応用するとオーケストラヒットのような音色を作ることができます。
  • オーケストラヒットにはディレイを付けたほうがより効果的です。

§5 動画

本講座をまとめた動画です。おさらいにどうぞ。