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仮想サントラの作り方
著者プロフィール
小川鎌慈 a
1993 年秋から 『ツインビー PARADISE』 の二次オリで同人活動を始めます。1996 年春から DTM を始め、 同年秋から個人サークル活動を始めます。
1998 年高校卒業と同時に上京しゲーム音楽の専門教育を受けます。2000 年ゲームボーイカラーとプレイステーションで商業デビューします。
同年秋から同人即売会で仮想サントラ CD を頒布開始。2003 年秋にゲームボーイサウンドフォントを作りチップチューンで活動を始めます。
2010 年のグラディウス 25 周年は東京の MOGRA 秋葉原で、 2015 年のグラディウス 30 周年は大阪のゲームバー Dendo で DJ イベントを主催しました。
2020 年のグラディウス 35 周年はアレンジ CD 『逆ディウス』、 2021 年の沙羅曼蛇 35 周年は 『ウンディーネ (仮想ゲームサントラ)』 を制作しました。
これまでにグラディウス、 ツインビー、 悪魔城ドラキュラ、 究極タイガー、 雷電、 空牙、 カプコン 19 シリーズなどの仮想サントラ制作実績があります。
仮想サントラ以外の代表作は、 2008 年の想像図 『フル HD 版スペースインベーダー』、 2017 年の単音チップチューン 『禁重音狂奏曲』 など多数。
2018 年から札幌の北海道 COMITIA、 やわらか大作戦などの同人即売会に出展しています。また年 1 回ペースで東京のイベントにも出展しています。
仮想サントラとは
ゲーム ・ エンターテインメント情報サイト IGN Japan で、 ゲーム音楽史/ゲーム史研究家の田中"hally"治久さんが 2022 年 11 月 13 日に投稿した記事、 「ゲーム音楽ディスクステーション#13 : 今や当たり前になった?架空サントラの世界 (前編)」 によると、 「存在しないゲームのサントラ」 が 1986 年の日本に登場し、 今では全世界で多くの作品が発表されています。
なお hally さんは架空サントラと呼んでいますが、 私は仮想サントラと呼んでいます。
仮想サントラと同人音楽
私の個人サークルは、 1996 年から 2006 年まで EDIA LABEL、 2007 年から 2017 年まで ASIA LUNAR、 2018 年から現在まで kaguyadepth という名前です。
2002 年にマイクロマガジン社の 『そうだ、 ゲームミュージックを聴こう!』 を監修した、 ゲーム音楽ライターの罰帝さんに寄稿を依頼した、 EDIA LABEL のラストアルバム 『えでぃあ すぺしゃる みゅ~じっく 萬両箱 ~活動満了記念~』 のライナーノーツから同人音楽に関する部分を抜粋します。
家庭用の安価な 「マイコン」 がもたらした音楽環境は、 演奏技法を磨くことなく 「音」 で遊べる素晴らしいものだった。と同時に、 ごく初期のマイコンで音を操るのは、 常に 「ダウングレード」 を余儀なくされる厳しい環境でもあり (それゆえに挑戦意欲を持つ者も多かったのは事実ながら) 、 本格的な音楽が誰でも楽しめたわけではなかった。
同人即売会で 「音楽」 が扱われるようになったのは、 PC-8801 系の FM 音源搭載機が一般化した後になる。まだまだ 「生音」 には程遠いが、 作者が自己満足できる音を出せたのはこの時代と言って良いだろう。ぶっちやけるとみんなで古代祐三の音色をパクろうと努力したものだ (決め付けるな) 。
ただ、 このあたりの時期で 「同人音楽」 という新出単語を使い始めたのは確かで、 これ以前に 「音楽同人」 という民族は生まれていなかったはず……? つまり、 以上から強引に結果を誘導すると、 「同人音楽」 は 「ゲーム音楽」 の存在がなければ発展しなかったのではないか? と思えるのだ。
この当時の優れたゲーム音楽は、 FM 音源の使い方のお手本と言っても過言ではなく、 それをコピーしようと頑張ったユーザーたちが 「同人音楽」 と呼ばれる基本を作り、 FM 音源の扱いに慣れたユーザーがオリジナル曲を 「打ち込み」 で表現し始め、 発表の場を求めて投稿や同人活動を開始した。
……では、 「音楽同人」 という民族は、 いつ生まれたのだろうか。
「マイコン」 が 「パソコン」 へと進化してゆく過程で midi が普及し始める。が、 このデータを発表できる場所は多くなかった。草の根ネットにダイヤルアップで接続して以下略な手法か、 同人即売会でデータ入り 5 インチフロッピーを直接売るくらいだ。
同人誌文化を発達させた 「コミケ」 では、 音楽系サークルの大進出が意外にも遅く、 「パソケット」 をはじめとするコンピューター系の同人即売会が一歩先を進んでいた。結果論ではあるが、 音をデジタルデータとして記録 ・ 複製できる技術の進化が 「音楽同人」 を生んだと言えるだろう。誰もが家で CD を焼ける、 なんて未来を誰が予想できたか。音楽同人は CD-R ドライブの普及が生んだ民族だったのだ。
「パソコン」 はビジネス向けの実用品でありながら、 ゲームで遊べる玩具でもあった。これによって、 DTM で音楽を始めた人間の多くは、 何らかの形でゲーム音楽に影響を受けているはずである。と言い切ってしまうのはさすがに強引過ぎる気もするが、 (後略)
罰帝さんは、 1980 年代のマイコンに搭載された PSG や FM 音源の打ち込み (MML というデータ記述言語を使う) が、 1990 年代のパソコンにつないだ Roland SC-55 などの MIDI 音源用データ作りに進化する過程で同人音楽が生まれ、 パソコン通信でやり取りするか、 録音したものを CD-R に焼いて (書き込んで) 頒布するようになったと解説しています。
CD-R は 1999 年頃から倍速書き込み対応ドライブの登場や台湾製メディアによる低価格化で普及が進みました。
しかし価格競争の激化によって、 2015 年までに開発元の太陽誘電を含む全ての国産メーカーが撤退しました。
太陽誘電の製造技術を引き継ぐなどして、 高品質メディアを生産している海外メーカーはいくつかあります。
同人音楽向けに少ない枚数で CD プレスできる業者や、 ダウンロードカードを使うという選択肢もありますが、 自宅で音楽 CD を 1 枚から作ることができる CD-R が、 同人音楽活動で便利なものであることに変わりありません。
「コミックマーケット (コミケ)」 は 1975 年から開催しているオールジャンル同人誌即売会です。
「パソケット」 は 1988 年から 2005 年まで開催していた同人ソフト専門の即売会です。
同人音楽専門の即売会 「M3」 が開催されるようになったのは 1998 年のことでした。
M3-1998 秋の参加サークル一覧を見ると既に 「オリジナルゲームサントラ CD」 「オリジナルで仮想シューティングゲームの曲を MD とテープで」 「コンピュータミュージック系オリジナル CD」 という活動内容のサークルがあったことがわかります。
また、 私を M3 と仮想サントラの世界にいざなってくださった深井淳さんは M3-1999 春から参加していました。
私は M3-2000 春に一般参加し、 M3-2000 秋から M3-2010 秋までほぼ毎回サークル参加していましたが、 その後は M3-2013 秋、 M3-2019 春、 M3-2022 秋と数年おきの参加になり、 最近の状況はよくわかりません。
M3-1998 春は 57 サークルの参加でしたが、 M3-2024 秋は約 1600 サークルの参加まで規模が拡大しています。
M3 のジャンルコードは大きく 「音楽一般」 と 「アニメ/ゲーム系 (カバー含む)」 に分かれていて、 仮想サントラはそのどちらにも含まれる可能性があるため、 サークルチェックは容易ではありません。
M3-2024 秋のサークルキーワードリストには 「仮想 RPG」 が 1 件、 「ゲーム音楽風歌モノ」 が 1 件です。
深井淳さんの仮想続編サントラ
M3 に参加していて主な活動内容が仮想サントラだった同人音楽サークルとして、 深井淳 (MIDI 虫) さんの mushi
深井淳さんは、 1997 年に日本ファルコムのアクション RPG 『イース』 の仮想続編サントラ 『プロジェクト ・ イース』 を、 1998 年にコナミの縦スクロールシューティングゲーム 『ツインビー』 の仮想続編サントラ 『プロジェクト ・ ツインビー』 を発表していて、 私はそれを地元の同級生から送られてきた MD で知ることになります。
深井淳さんの仮想続編サントラはタイトルやジャケットのコンセプトがわかりやすく、 全曲オリジナルでありながら題材としたゲームの雰囲気を重んじていて、 ゲーム音楽ファンのツボを押さえた作品になっていました。
たとえば 2002 年に発表したコナミの横スクロールシューティングゲーム 『グラディウス』 の仮想続編サントラ 『PROJECT G』 では、 グラディウスⅣのステージ構成にグラディウスⅢまでの延長線上にある音楽をつけ直すという仮想サントラならではの試みがなされています。
そのほか、 ファンタジーゾーン、 悪魔城ドラキュラ、 ドラゴンスピリット、 ドラゴンクエストなどの仮想続編サントラを制作しましたが、 2006 年からオリジナル曲に軸足を移し、 現在は Tune
深井淳さんとは M3 の打ち上げを何度かご一緒させていただきましたが、 同じく仮想サントラで活動しているサークル数名が集まったため、 非常に濃密なゲーム音楽談義をしていた記憶があります。深井淳さんは英語が堪能で、 英文翻訳と声の出演を依頼したこともありました。
ツインビーの仮想続編企画
1985 年にコナミは 2 人で協力して遊ぶことができるコミカルシューティングゲーム 『ツインビー』 を発売し、 ファミコンで続編が作られましたが、 1991 年にアーケードで発売された続編 『出たな!!ツインビー』 から、 アニメーターの濱川修二郎さんがデザインした人物キャラクターが登場し、 1993 年秋から文化放送でラジオドラマ 『ツインビー PARADISE』 がスタートすると、 ゲームファン以外のリスナーを巻き込んでお化け番組になりました。
この番組のリスナーのことを Bee メイツと呼び、 「合言葉は Bee!」 を広めるために番組公認の Bee メイツ支部が全国各地で次々と結成されました。
1997 年に番組が終了し、 1999 年に OVA が終了すると、 ゲームの続編も作られなくなってしまい、 ファンの間で続編を求める声が高まっていきました。
『ツインビー PARADISE』 の放送開始から 2 ヶ月後に二次オリで自主制作ラジオドラマ 『ザコビーパラダイス』 を収録した私たちは、 同人サークル D
1992 年春からコナミレーベルインフォメーションの担当者と文通していた私は、 『ザコビーパラダイス』 のカセットテープをコナミ本社に送っていました。
その熱意が認められたのか、 1994 年 12 月発売のドラマ CD 『ツインビー PARADISE2 Vol.1』 に 『ザコビーパラダイス』 が掲載されました。
『ザコビーパラダイス』 の BGM はコナミレーベルの CD を使っていましたが、 次第にオリジナル曲が欲しくなって DTM を始めることになります。
Bee メイツ札幌大通公園支部は 「We Love Twinbee’s Page」 というインターネット上で日本最大のツインビーファンコミュニティを運営しており、 そこで 『ツインビー PARADISE』 の未来を描く 『ツインビー 2000』 という仮想続編プロジェクトが動き出しました。
どんぶり島の異常気象と時を同じくして現れた謎の転校生ソル。未来のツインビーチームが Dr.プラトンに支配された惑星メルの救出に向かうというストーリーです。
仮想サントラは、 まず 『プロジェクト ・ ツインビー』 を作った深井淳さんが、 2000 年にゲーム風の 『プロジェクト ・ ツインビー 2000』 を制作しました。
その後私が、 2001 年に完結編のプロットを元にしたドラマ風の 『ツインビー 2000 ~Let’s ENJOY!!~ TO ALL BEE FRIENDS』 を制作しました。
しかし 「We Love Twinbee’s Page」 は更新が途絶えてしまい、 『ツインビー 2000』 は未完のままとなっています。
- プロジェクト ・ ツインビー DUAL PACK by mushi
.net | Tune Core Japan - one more footprints 萌尽狼オリジナル曲ベスト 2 - kaguyadepth (ツインビー 2000 の一部楽曲を再録しています)
仮想サントラのゲーム化
テクノソフトが 1997 年にセガサターンで発売した横スクロールシューティングゲーム 『サンダーフォースⅤ』 の作曲者である九十九百太郎さんが、 2001 年に 「Project サンダーフォースⅥ」 と銘打って 『BROKEN THUNDER』 という仮想続編サントラを発表しました。
その後、 2007 年にとらのあな専売でゲーム版 『BROKEN THUNDER』 が発売されましたが、 インターネットミームの 「先行者」 に喩えられるほどのひどい内容で、 アップデートも行われず返品対応となってしまいました。
またテクノソフトの権利を取得したセガから 2008 年に発売された正式な続編であるはずの 『サンダーフォースⅥ』 も評価が芳しくなく、 マイクロマガジン社が 2012 年に発売したゲーム雑誌 『シューティングゲームサイド Vol.5』 のサンダーフォース特集ではなかったことにされてしまいました。
仮想サントラはリスナーのイマジネーションを掻き立てるものですが、 後から発売されたゲームはそのイマジネーションに応えることができませんでした。
仮想サントラはむやみにゲーム化するべきではない、 ゲームの続編を作るなら最初からゲームにするべきだという教訓として、 後世に語り継いでいくべき事例です。
- BROKEN THUNDER - みんなで決めるゲーム音楽ベスト 100 まとめ wiki - atwiki (アットウィキ)
- BROKEN THUNDER とは (ブロークンサンダーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
仮想サントラの作り方
私はシューティングゲームが好きなので 『グラディウス』 を例に説明します。
- グラディウスとは
- 『グラディウス』 はコナミの横スクロールシューティングゲームです。1985 年にアーケード版が発売されシリーズ化しました。
宇宙空間に現れる火山、 ストーンヘンジ、 モアイ、 触手、 細胞を攻略し、 機械要塞の中枢にある頭脳を破壊することが目的のゲームです。
音楽は東野美紀さんが作曲しました。各ステージの雰囲気に合わせた勇壮で神秘的なメロディーがプレイヤーを魅了します。
続編ではジャズ ・ フュージョンやプログレッシヴ ・ ロック、 テクノ、 オーケストラと幅広く宇宙のイメージを取り入れていきました。
グラディウスのサントラ
仮想サントラを作りはじめる前に、 まずゲームサントラの収録内容を見ていきましょう。
曲名は省いています。またシステム基板のウォーミングアップや未使用曲も省いています。
- ゲームスタート
- 空中戦
- ステージ 1
- ステージ 2
- ステージ 3
- ステージ 4
- ステージ 5
- ステージ 6
- ステージ 7
- ボス
- ゲームオーバー
- ランキング
ゲームスタートとゲームオーバーはジングル (場面転換用の短い音楽) で、 その他は BGM (ループする音楽) です。
実際のゲームでは次のような順番で音楽が流れます。
- ゲームスタート
- 空中戦
- ステージ 1
- ボス
- 空中戦
- ステージ 2
- ボス
- 空中戦
- ステージ 3
- ボス
- 空中戦
- ステージ 4
- ボス
- 空中戦
- ステージ 5
- ボス
- 空中戦
- ステージ 6
- ボス
- 空中戦
- ステージ 7
- ボス
- 空中戦
- ステージ 1…
グラディウスは無限ループするゲームなので、 ラスボスを倒すとステージ 1 に戻って難易度が上がります。
ゲームの途中で残機を全て失うとゲームオーバーになります。このとき、 ハイスコアであればランキングに画面遷移します。
このようにグラディウスでは 1 つのステージが 3 つの場面 (空中戦、 ステージ、 ボス) に分かれています。
空中戦とボスは全ステージ共通の BGM です。続編ではステージごとに別の曲を用意している場合もあります。
続編では、 オープニング、 エンディング、 自機や武装のセレクト、 ボスラッシュなどの場面が追加されました。
こうしたゲームサントラの骨組みに、 オリジナル曲を当てはめれば仮想サントラになります。
私とグラディウス
私はスーパーファミコン版 『グラディウスⅢ』 が発売した 1990 年頃にコナミ矩形波倶楽部のファンになりました。
その後しばらくグラディウスの続編がなく、 1996 年の 『沙羅曼蛇 2』 が初めて発売予告から稼働開始まで目撃した続編になりました。
グラディウスには 1986 年の 『沙羅曼蛇』 と 1987 年の 『グラディウス 2』 と 1988 年の 『グラディウスⅡ』 という 3 つの続編があります。
MSX で発売された 『グラディウス 2』 と、 アーケードで発売された 『グラディウスⅡ』 は全く別のゲームです。
グラディウスシリーズの中でも特に完成度が高い 『グラディウスⅡ』 を参考に数多くの続編が作られているのに対し、 『グラディウス 2』 は MSX の性能不足を補って余りあるゲーム内容やストーリー、 音楽の充実ぶりでファンを魅了してきました。
グラディウスⅠ ・ Ⅱと沙羅曼蛇 1 ・ 2 が完全移植されたプレイステーションで、 1997 年夏に家庭用オリジナルの続編 『グラディウス外伝』 が発売します。
そして同年秋から MSX 版グラディウスシリーズを含む 『コナミアンティークス MSX コレクション』 が全 3 巻発売されました。
さて 『沙羅曼蛇』 や 『グラディウス外伝』 にはグラディウスの自機ビックバイパーの他に赤い戦闘機ロードブリティッシュが登場しますが、 『沙羅曼蛇 2』 には別のスーパーコブラという赤い戦闘機が登場したため、 ファンの間で物議を醸していました。
アーケードゲーム雑誌に掲載された 『沙羅曼蛇 2』 の設定資料には、 スーパーコブラには元となった主力戦闘機コブラがあると書かれていました。
戦時急造でビックバイパーの武装をコブラに搭載したら、 巨大な垂直尾翼のスーパーコブラになったという筋書きに、 私はとても興奮したのです。
- 沙羅曼蛇とは
- 『沙羅曼蛇』 はコナミの横または縦にスクロールするシューティングゲームです。1986 年にアーケード版が発売されシリーズ化しました。
『グラディウス』 の続編ですが、 パワーアップシステムが異なり、 2 人同時プレイが可能なため、 別シリーズとして扱われています。
音楽は東野美紀さんが作曲しましたが、 FM 音源を採用し、 三連符を多用したメロディーは 『グラディウス』 とは全く異なるものになっています。
続編は前田尚紀さんが作曲しました。『グラディウス』 シリーズを踏襲しつつも、 ダンスやテクノでグルーブ感のある音楽を展開しています。
沙羅曼蛇2とコブラにこだわる
このような経緯からグラディウスシリーズの中でも特に 『沙羅曼蛇 2』 と、 赤い戦闘機スーパーコブラ、 または設定資料のみに登場する主力戦闘機コブラに並々ならぬ思い入れがあって、 これまでに同じテーマで 4 回仮想サントラを作ってきました。
何度作ってもいい、 それが仮想サントラの魅力です。
ステイリゼル(STARIZER)
2000 年から 2002 年にかけて作っていた仮想サントラです。当初は 『沙羅曼蛇 2 エピソードⅡ』 という作品名でしたが諸事情により改題しました。
ラスボスのドゥームを撃破したビックバイパーと交信が途絶え、 20 年前に討ち逃したディーヴォが復活。父親がスーパーコブラ 2 号機ファイナライザーで出撃します。
『グラディウス外伝』 や MSX 版グラディウスシリーズに大きく影響を受けた作品内容で、 コナミプログレを踏襲したロック調の曲が多いです。音源は SC-88 でした。
ゼロスフォース:リヴァイヴ(0th4th:revive)
2003 年から 2006 年にかけて作っていた仮想サントラです。企画が途中で暗礁に乗り上げたため、 完成までに約 2 年の空白期間があります。
もうひとつの 『沙羅曼蛇 2』 を作るため 『ヘクシオン』 を参考に SCC (波形メモリ) +PCM (サンプリング) という架空のアーケード基板を考えて曲を作りました。
ファミコン版 『沙羅曼蛇』 に MSX 版 『沙羅曼蛇』 のヴェノム艦を追加したステージ構成で、 グラディウスファンはゲーム画面がイメージしやすかったことでしょう。
エクステイリゼル(XTARIZER)
2006 年から 2007 年にかけて作っていた仮想サントラです。PSP 版を想定して 『ステイリゼル』 をフルリメイク。取扱説明書を作り、 DVD ・ PSP ケースで頒布しました。
ディーヴォ戦の制限時間と破壊箇所でルート分岐し、 ドゥームが復活する True ルートと、 ディーヴォ冷凍作戦の Bad ルートでステージ数が変化します。
ロックを封印して 『沙羅曼蛇 2』 のダンステクノを踏襲したグラディウスシリーズのマイナー曲アレンジが中心の内容に変更しました。オリジナル曲は少なめです。
ウンディーネ(UNDINE)
2021 年から 2022 年にかけて作っていた仮想サントラです。北海道 COMITIA で頒布するため二次オリ脱却を図り、 曲もストーリーもオリジナルになっています。
辺境開拓軍のアレックス軍曹が誤って蛇神ウンディーネの封印を解除してしまい、 亜空間に消えた故郷に居ても立っても居られず主力戦闘機コブラで出撃します。
コブラが好きなレイチェル大尉とコブラが嫌いなシーパワー王子も登場する三部作です。ゲームボーイ音源を中心に 『沙羅曼蛇』 らしい FM 音源も使っています。
仮想サントラにおける詞先・曲先
歌モノを作るときに 「詞先」 (歌詞から先に作る) か 「曲先」 (曲から先に作る) かとよく言われます。
仮想サントラでも、 なんとなくゲーム音楽っぽいものができたので、 そこからイメージをふくらませていく 「曲先」 ということはあります。
先に挙げた、 ゲームサントラの骨組みにオリジナル曲を当てはめる手法は、 どちらかといえば 「詞先」 になります。
「曲先」 の場合は、 ある程度の曲数がまとまらないと、 仮想サントラとして発表することは難しいです。
RPG だとオープニング、 街、 フィールド、 ダンジョン、 通常戦闘、 ボス戦闘、 イベント、 エンディングくらいは欲しいところですね。
いっぽう 「詞先」 の場合は、 こんな仮想サントラを考えていますと発表すること自体はとても簡単です。
さて、 ゲームサントラの骨組みにオリジナル曲を当てはめていく場合、 どこから手を付ければよいのか悩むことがあります。
『ウンディーネ』 ではラスボスの蛇神ウンディーネから作り始めて、 そのモチーフをアレンジしてオープニングやエンディングを作りました。
しかしこのメインテーマに力を入れすぎて、 続編ではボス曲の差別化が難しくて後回しになってしまうということがありました。
「詞先」 の場合、 企画を考えるのが楽しくて肝心の作曲が一向に進まず、 目なし達磨だらけになってしまうことがあるので注意が必要です。
私が 「あとは達磨の目を入れるだけ」 とつぶやき始めたら、 それはかなり切羽詰まった状況に追い込まれているということです。
思い描いたゲームを相手に伝える方法
仮想サントラのリスナーに、 作り手が思い描いた架空のゲーム像を伝えるにはどうしたらよいのでしょうか。 音楽 CD でも配信でもタイトル、 ジャケット、 説明文の 3 点は最低限必要です。 ジャケットに載せるタイトルロゴやイラストをゲーム風にしてみたり、 ゲームソフトのパッケージをまねしてみたりと、 いろいろ工夫できそうです。 レトロゲームを題材とした仮想サントラであれば、 ドット絵やボクセル (『マインクラフト』 風の 3D ドット絵) という表現方法もあります。 音楽 CD の場合はジャケットを小冊子にすることでライナーノーツや設定資料を載せることができます。 少し厚みのある小冊子が作りたい場合は DVD トールケースに音楽 CD を入れてみてもよいでしょう。また別冊で同人誌を作ってもよいでしょう。 音楽 CD でも配信でも SNS での宣伝活動と、 そこからアクセスしてもらう特設サイトが必要です。同人音楽用のテンプレートがありますので使ってみましょう。
ドット絵はあったほうがよい?
『ステイリゼル』 (2001 年) が完成した後にゲーム化を考えていた時期があり、 その頃から STORM PROJECT の ASD さんにドット絵を依頼するようになりました。
『ゼロスフォース : リヴァイヴ』 (2006 年) は架空のアーケード基板、 『エクステイリゼル』 (2007 年) は PSP 版を想定していましたが、 ASD さんはそれぞれのハードの制約に合わせたドット絵を作ることができるので、 あたかも本当にゲームが存在しているかのように見えるのです。
特にゲームボーイアドバンス版 『雷電』 を想定した 『蕾電伝説 (つぼみでんでんせつ)』 (2005 年) や、 空牙とセルフプレジャーアイテムの TENGA をかけ合わせた 『天牙 (てんが)』 (2008 年) では、 彼のドット絵がなければ作品が成立しないほどでした。
その一方で、 ドット絵があることでリスナーから想像の余地を奪ってしまうのではないかという懸念から、 『ウンディーネ』 (2021 年) や、 タイムパイロットとグラナダをかけ合わせた多方向スクロールシューティングゲーム風の 『ツァイトライゼパンツァー』 (2019 年) ではドット絵を作りませんでした。
ところがこれは大誤算でした。そもそもシューティングゲームがわからないという人が多いのです。わからないものには手を出せないので売れません。
シューティングゲームと言ってもイメージが伝わらないのです。ドット絵があればなんとなく見たことがあるゲームだと思ってもらえたかもしれません。
仮想サントラはゲームが存在しないから面白いのに、 イメージを伝えるためにドット絵を作らなくてはならなくなるのは本末転倒な気がします。難しい問題です。
2024 年 11 月 18 日 萌尽狼
同人誌版
本稿を元にした同人誌版 『仮想サントラの作り方』 を発行予定です。
サンプル
準備中。
作品情報
サークル名 | kaguyadepth |
発行日 | 2025 年 1 月 4 日 |
イベント | 超 ・ やわらか大作戦 8 (一次創作メイドイン) |
ジャンル | 評論 ・ 情報 |
文章 | 萌尽狼 |
年齢指定 | 全年齢 |
サークル頒布価格 | 未定 |
仕様 | A5 判 ・ ページ数未定 (中綴じコピー本) |
印刷所 | 自宅印刷 |
備考 | イベント限定販売 |
禁止事項
文章 ・ 画像の無断使用や転載、 オークションへの出品、 海賊版サイト等へのアップロードなどは、 固く禁止させて頂いております。